< 合間の会話 >
遠呂智を倒し、世界に平和がもどったが、
世界がもどる様子は見られず、人々は変化する前の世界と同じ地域で、昔どおりの生活をはじめた。
多少おかしな地形ではあるが、それでも慣れた風土のこともあり、順調になじんでいった。
なにより、大きな脅威が去った安堵感が大きなやる気を出させた。
戦いで疲弊しているため、各勢力は回復につとめ、
その一方で残党退治に近隣同士が手を組んで戦うといった状態だった。
そんなつかの間の平和を謳歌していたある日、
石田三成のもとを訪れた真田幸村は、先客がいると聞かされた。
とりつぎが幸村の来訪を告げると、列席でもいいならすぐ案内できるとの返答だった。
急ぐものではないが、誰がきているのかも気になり快諾したが、
部屋にいた人物に驚きの表情を隠せなかった。
「これは……ええと、曹丕殿、でしたか」
「お前は真田幸村、と言ったか」
ぺこりと頭を下げると、鷹揚な返答、返礼もしない。
その態度に三成がたしなめる顔をしたが、幸村は笑って首をふった。
「魏の若君に名を覚えていただけるとは光栄です。
どうぞ幸村とお呼びください」
魏の者らしい蒼い衣装がさえざえと似合っている彼。
三成の衣装とは対になっているような色合いで、怜悧な二人は整いすぎた絵画のよう。
そこに己が混じるのは、なんだか場違いの気もした。
三千年の時を経ていても、相手は後に一国を統治した大人物。
一般的に見れば礼を欠く言動だが、生まれた時からひとの上に立つ人物に説くのは無理があろう。
大体、肝心なのは呼び名や態度ではない。
「一度お会いしたいと思っていました」
腰を落ちつけ、目の前の二人を見る。
並んですわっていたらしいが、幸村がきたので少し間を空けたらしい。
奇妙な三角形は、なんだか今の関係をよく表している気がした。
三成と自分、三成と曹丕の距離は近い、けれど、自分と曹丕は少し遠い。
にこにこと人好きのする顔を前にしても、曹丕の顔は微塵も動かない。
無言のまま、先を促すように少し顎を動かしただけ。
三成ですら、その純粋さを見ると思わず相好を歪めてしまうのに。
この爛漫な笑顔を見てもなんとも思わないとは、と感心する三成をよそに、座を正す。
「三成殿を助けてくださったこと。
感謝の念に堪えません、ありがとうございました」
「お、おい、幸村……!」
手をそろえて丁寧に深々と礼をすれば、三成が泡を食った様子で腰を浮かせる。
刀を合わせた友人ではあるが、だからといって彼が頭を下げる必要はないはずだ。
幸村が利得でそうしたのではないとわかるだけに、なんともいたたまれない。
しかし曹丕は平然としたもので、
「成程、三成が実直と評するだけはあるな」
納得したと頷いてみる。
自覚のない幸村は、そうだろうかと首をかしげた。
生きにくい男だとはよく言われるが、それと同じ意味なのだろうか。
よくわからなかったが、雰囲気からけなしているのではないらしいので、
まあいいかと三成が手ずから出してくれたお茶を手にとった。
「だからこそこの男は、お前たちになにも言わず妲己の陣営についたのだろうな」
気を落ちつけてすわりなおした三成をちらりと見て、突然呟いた。
きょとんとする幸村と、細い目で睨む三成を交互に眺めてから、
「お前たちのようなものに、偽りとは言え敵に膝を折らせたくなかったのだろう」
「おい、曹丕……っ!」
窘める表情はやや赤みを帯びていて、それが事実なのだとなにより語っている。
ぱちぱちと瞬きをした幸村だったが、やがて嬉しそうに三成を見た。
彼はそれを避けるようにあさっての方向へ首を動かす。
一時的とは言え、信用を得るため、妲己に従い、民を虐げた。
反旗を翻す連中に、小さい勢力では意味がないと伝える代わりに、蹂躙した。
結果上々の首尾に終わったからよかったが、当時は五分の賭だった。
万一を考えて、他者まで巻きこみたくはなくて。
だから友も、部下も、上司にも真意を告げなかった。
それで縁が切れれば、己への評価もそれまでだと覚悟して。
「私は特に感情を隠すことが下手ですから、
共にあっても足手まといになった気が致します」
腹芸が苦手なのだと、困った笑顔で口にする。
戦だけで平和の世は構成できぬと知っていても、
自分にはそういうものはどうも苦手で。
戦場での策や、与えられた領地はなんとか守っていけるけれど。
「三成殿のお気持ち、嬉しいです。
同時に、私たちが側にいられなかった時、曹丕殿がいらして、やはりよかったと思います」
口にしなくても三成の心情を理解してくれている。
慰めなどは一切しないが、根本をきちんと察して行動に移す。
慣れぬ遠呂智軍の中で、きっとそれは三成の救いになったはずだ。
「……外から立ち向かう役目も必要だった、それだけだ」
ばしんと扇を開いて、そっけなく言い放つ。
照れ隠しであることは短くないつきあいだ、見分けられる。
すなおでない友人の表現方法はおなじみなので、幸村は破顔したままだった。
「曹丕殿がこちらにいらしたのは、それを私たちに伝えるおつもりだったのですね」
「……この男の友人に興味があったからだ」
三成の性格からして、自分からそれを告げることはないだろう。
きっと見越してのことに違いない。
そう直感した幸村だったが、曹丕の言葉も友と同じくらい平淡だった。
だが彼は頓着せず、笑顔のままお茶を口に運んだ。
懐かしい味が広がって、再会できてよかったと、心から思えた。
> ほのぼの、兼続も出したかったのですが、そうすると三成が恥ずかしくて倒れそうで(笑
> 曹丕は優しいというより、三成の言わないっぷりに苛立つくらいかもしれません。
> あとは、反応が見たいだけ(意地悪、
> 幸村は天然、というのが私の基本姿勢です。(09.06.07)