< 欠けた月 >
『曹丕さんとの協力、よろしくね、三成さん』
『……監視の間違いだろう』
『やぁねぇ、そんな恐い言いかたつまんないじゃない。
……ま、でも、報告はよろしくね?』
という妲己の命令により、行動を共にするようになった。
彼の行動は、一見すると遠呂智の言うままだが、
さりげなく民を逃がしたり、兵糧庫の場所を教えたり、
逃亡しやすい道をつくっていたり……と、着実に力を削ぐ方向へ持っていっている。
こちらが彼女に報告することを考えているのかいないのか、
彼が側にいても、行動に些かの変化もない。
……おそらく彼のことだ、もっともらしい釈明は考えているのだろう。
永久のことではないのだから、時間が稼げればそれでいいのだし。
三成自身も、彼女といつまでも共にいるつもりはないので、
報告は適当に誤魔化して上げている。
煙にまける程度の行動をとってくれるあたりは、流石だとひそかに感心している。
だが、それを曹丕に言ったことはないので、表面上二人は仲が悪いままだ。
もう少しどうにかしたくはあるが、なかなかきっかけもない。
日中は人目もあるし、あの狐のことだ、軍の中にも間者がいるだろう。
お互い口を開けば皮肉が出る性格なので、腹を割るということもない。
宴席を開く気分でも状況でもないので、軍議と戦場以外ではほとんど顔を合わせない。
自分が妲己への報告を誤魔化していることは気づいているのだろうが、
だからと言って礼をするわけでもないし、また彼もそれを望んでいなかった。
あちらを油断させるためには、味方ですら欺く必要がある。
おそらくその点では、彼と自分の考えは同一なのだろう。
それは奇妙なまでの実感だった。
静かな夜の庭を歩きながら、そんなことをつらつらと考える。
二つの世界が融合したせいか、時折月は二つも存在する。
そのため、夜と言っても十二分に明るい。
赤みがかった色はあまり気分のいいものではないが、
眩しい陽光よりは気が落ちつく。
明るい太陽は、多少色が悪くてもやはり生き生きとしていて、
大局のためとは言え敵側にいる自分を憂鬱にさせる。
ふぅ、と首をふり、暗い思考を追いやる。
ここには太閤も腹心の部下もいない。
滅入っている暇などないのだ。
気分を変えようと、もっと月がよく見える場所へとむかった先に、今まさに考えていた人物がいた。
「奇遇だな」
「貴様こそ」
短く言葉を交わす。
近くに余人の気配はない。肩の力を少し抜いた。
「お前も月見か、三成」
自分と同じく、武装を解いて砕けた格好の曹丕は、手に書簡を持っていた。
蛍雪の功ならぬ月光の功とでも言うのだろうか。
酒の気配は微塵もないし、きっと毎晩こうしているのだろう。
二つの世界の融合は、双方ともに未知の事実がたくさんあり、
いくら学んでも足りないほどだ。
「月見と言うには、欠けているがな」
今日の月は半月よりはやや太いが、かといって満月の手前でもない。
ずんぐりとした印象の状態は、なんとも中途半端だ。
どちらの月もそんな形だから、月見をしている者などほとんどいないだろう。
揶揄した彼に、男は一瞬笑みを浮かべたが、彼がそれを見ることはなかった。
「満月ならば、誰もが見て感嘆し、詩にする。
たまには欠けた月を愛でるのも良かろう」
囁くような言葉に、思わず相手を見る。
感情の読めない目と、視線が合った。
「欠けている分は、想像で埋めるか?」
「ほう、悪くない考えだな」
嫌味のような調子だが、おそらくこれが素なのだろう、己と同じく。
そう思うと、そこまで腹も立たなかった。
そのまま二人はしばらく、欠けた月を眺めていた。
胸の内で、欠けたものを埋めながら。
> 奇妙な友情……的な。
> ちょっと中途半端ですみません(汗
> 曹丕もそれなりにいい詩を残しているらしいので、
> そんな感じに……なっていますかね?(汗
> 拍手お礼時より加筆修正しています。