< 文 >
名を呼ばれて表に出ると、すっかり見慣れた使いの顔があった。
こちらはもうずいぶん暖かいですねと、ほっとした表情を見せながら、
手にした文をこちらに渡してくる。
労をねぎらい、奥で暖かい茶でも飲めと伝えると、感謝の意で頭を下げた。
暖かい、と言われても。南国育ちの己には十二分に寒くて。
それ以上の寒さなど想像しただけで背筋がそわりと粟立つ。
吹いてきた風の冷たさに首をすくめ、すぐさま部屋にひっこむと、文机に腰を落ちつけて文を開いた。
荒く梳いた和紙は味があり、薄く紫が入って美しい。
『こちらはまだ雪が降っている。寒さもなかなかやわらがない。
大坂はもう春の風が吹いているだろうか』
そんな内容から文ははじまっていた。
近況と共に寒さに耐えかねるという少々の弱音。
太閤の命によって、己が戦屋と呼び仇敵と認識する男が北国へ行ったのが冬の前。
それを見送って十日ほどして、最初の文がとどいた。
道の途中で見たものなどを書いたその手紙に、最初は大いにとまどった。
存外流麗な文字を書くとか、そういう小さな発見もあったが、なによりなぜ自分に、と思ったのだ。
あちらにとってこちらは「お嬢」であって憎むべき対象ではないらしいが、
だからといって文を寄越すような間柄、……恋人であるとか、ではない。
不思議と不審を半分ずつ持って読み進めていくと、最後にこう記してあった。
『いつも隣にいたお嬢がいないと、なんとなく物寂しい。
それに、こちらの諸々は我らのいた地とはあまりに違う。
同じ南国の者であるお嬢にも、伝えたくなった』
たしかに書かれていた内容はもともとの地とは違い面白くて、夢中になって先を急いだ。
そして、悔しいことに隣にいないことに物足りなさも感じていた。
認めることは癪だったけれど、事実なのでどうしようもない。
使者に待つよう伝えて、大急ぎで筆をとった。
喜んだ様子が悟られれば、きっと帰ってきてからかわれる。
だから暇な奴だとか使者が大変だろうに仕事を押しつけるなとかそんな憎まれ口を挟みつつ、
内容についての感想や質問、そして礼を織りまぜた。
それを使者に手渡して数日、新しい文がとどいた。
まだ己の手紙はとどいていないらしく、無事ついた報告と、積もった雪への驚嘆などが綴られていた。
返信をしたため送ると、最初の手紙への礼とともに次がくる。
文が到着するまでは間があるため、手紙の応酬は若干のずれが生じたが、
いつのまにかそうして文のやりとりが冬の間の日常になった。
今日の文にはそろそろ帰路につくこと。雪国から送るのは最後だろうとあった。
老体はこたえるから帰りたい、とあり、思わず笑みがこぼれる。
そんな軟弱な身体をしているわけもないのにと呟きつつ、一抹の寂しさに首をかしげた。
もどってくれば前のように口論も簡単にできる。
手合わせだって簡単だし、会おうと思わなくても合議や宴席で顔を見る。
けれど手紙という手段は、相手がいないからこそ平素より穏やかになれるのも事実で。
己の知らない北国の情報も、好奇心を刺激するに十分で。
駄々のようだと渋面をつくって読み進めた手は、男の一文でぴたりと止まる。
『お嬢と戦場を走ることが一番ではあるが、文のやりとりがなくなるのもつまらぬものだ』
同じことを考えていたと、知って。
面はゆい感情がわいてきて一人で狼狽した。
思わず文をにぎりしめそうになり、慌てて力をゆるめる。
皺の寄った部分を丁寧に伸ばして、もとの姿にもどした。
『土産にこちらでつくられている鉄器でも持っていこうと思う』
鉄器というあたり色気もないが、もとより彼女は装飾品を求めないので、
男の選択は彼女相手には正しいものと言える。
土産まで持ってくるというのなら。礼を言わないわけにはいかない。
文のことも、知らせてくれた風土のことも。
無事に帰ってきてくれなければ、それも伝えられない。
だから。
だからなのだと。
はやく無事でここへもどってこいと。願った。
> あーえーと。まとまってないのでわりと一発書きです。
> ほとんど推敲していませんので文章が色々……色々。
> ちょっと書きかたを変えたつもりですが、見てみるとそうでもないですね。
> たまには手紙もいいものです、ということで。
> ちなみに私は悪筆のため、手書きの手紙は書けません……(10.03.25)