< 計算違い >


 ただ頑健で豪快で、気遣いの欠片もない様子で。
 時折頭をなでようと腕が動くことも知っていた。
 それは子供扱いなのだろうと、たしかに年の差はそれくらいだがと、
 納得しようとしてもできかねずにいた。

 けれど女扱いされることをよしとしない己の気持ちを尊重し、
 あくまで武人として対応してくれていたなど、気づかなかった。今の今まで。

「さ……けに……」
「酔うた勢いで誤魔化す真似は、せん」

 声がふるえるのは嫌なのに、抑えられなかった。
 断じる低い声はいつもより鮮明で近い。そんなのは当たり前だ。

 なぜってその身体は自分にぴったり寄り添っていて。
 もっと言うと床に押し倒されて首に手をまわされ抱きすくめられているわけで。
 ひやりとした畳の感じが背に痛いけれど、文句を言う余裕は無い。

 はるか昔父に抱きしめられたのと同じようで、
 けれど微かなにおいは同じ男性でもまったく違う。
 まして父はこんなにしっかりと抱きしめることはできなかった。
 力強さをたしかに感じる、けれど同時に壊れものを扱うような、
 加減に気を遣っているらしい腕の動き。

 自分を見つめる目は少しもずれない。
 一方己は直視できず、けれどどこを見ればいいのかわからなくて、
 顔を動かし聞こえる音すらなんだか気が咎めて、
 蛇に睨まれた蛙だとかそんな言葉を思い出す。

 宣言通り、近くにいても酒のにおいはしない。
 となると男は素面であるということで。

 ではいつもあれだけ飲んで酔ったと言って気を抜いていたあれは。
 硬い態度の彼女をやわらげるためのものだったのか。

 なにが本当でどこが嘘なのか、
 倍も違う年長者が本気を出せば、ほんの少しも読みとれない。

 けれど今のこの瞬間は、掛け値なしの本気なのだと。
 時折調節できず入る力に、理屈抜きでそう知った。





> タイトルは私の気持ちです。
> 一体なにを書きたかったのか思い出せない書きかけがあったので、
> えいやと仕上げてみましたが、こんなんだったかなぁ……
> 暴走島津が書きたくて書いてみたものだった気がします。
> たまにはということで。(10.03.14)