< 神が鳴る >


 灯りなぞさしてない一面、漆黒の闇に塗り潰されている。
 月も星も覆い隠す雲と雨により、その闇の深さはいつもの比ではなく。
 けれどそんな空を、定期的に光が散る。

 赤や紫に染めあげて、空から地へと眩しい矢のように流れ、
 その後しばらく時間を経て大きな音を轟かせる。

 直撃すれば家屋なぞ簡単に焼けてしまう。
 避けることのできないその自然災害を、彼女は飽くことなく見ていた。
 その目に畏怖はまったくない。
 さりとて美しいものを見る時のような熱もない。

 土砂降りの雨に濡れぬ程度の端に腰を落ちつけて、
 つきあい程度に注いだ酒に時折口をつける。
 それ以外はひたすら、光る空を見つめていた。

「まだ見ていたのか?」

 奥から低い声が響く。
 湯を浴びてきた男は、水気の残る髪の毛を鬱陶しそうにしながら、彼女の側に胡座をかいた。
 彼女はちらとそちらに視線を送ったが、すぐさま目はもとにもどる。
 そんなものを見ている暇などないと言わんばかりの態度に、苦笑が漏れたが、勿論彼女は気づかない。

「被害がなければ良いがな」

 領土を持つ者らしい発言にも、たいした返答を寄越さない。
 常であればありえないが、追憶の中にいるのだと男にはわかっていた。

 神の所行とも言われるそれに焼かれても、なお生き延びた彼女の父。
 ゆえに雷を制したと、彼の知謀と合わせて諸国にその名を響かせた男。
 彼女にとって雷は、恐ろしい自然現象である前に、父を思い出す鍵となる。
 だからその瞳は穏やかで、言葉を発することもない。
 おそらく彼方へ心の中で語りかけているのだろう。

「きっと、落ちない」

 こどものように論拠のない断言だったが、男は笑ってうなずいた。
 また光が舞い、昼間とも違う明るさが一瞬あたりをまばゆく照らす。
 紫の色がよく似合う、と、漠然と見惚れた。

「そうさの、お嬢がいるならな」

 ただひとりの娘のいる地に、彼女の領民に。
 害をなすなどありえない。
 くだらないと一蹴する気にはなれなかった。

「……打たれるのは儂だけかもしれんな」

 光のあとに続く音が遠のき、輝きも落ちてきたところを見計らう。
 その表情は大分現世へもどってきているようだった。
 大量に残っていた酒を横から奪い、直接あおると、くつくつと笑みをこぼす。
 きょとんとこちらを見た彼女の頭をなでて、

「一人娘を奪った男を、父親なら怒るだろう?」

 ましてやそれが仇敵で、年も離れているとなれば。
 普通の父親ならさぞ立腹するだろう、恐い話だ――
 などとほのめかすが、声音はどこまでも揶揄するようで、
 本気で恐れているようにはとても感じない。

 男は笑んだまま頭を手を動かし首を軽くなでる。
 ぴく、と身じろいだが反抗はせずなすがまま、
 猫のように目を細めて心地よさそうにする。

「そんなことは、させない」

 無骨な手の感触を楽しむように、目を閉じたまま己の手を当てて断じる。
 直後開かれた瞳の色は強く、先ほどの輝きを彷彿とさせた。

「……そう、か」

 曖昧にうなずくと、するりと重心をかけてくる。
 危なげなく受けとめて、そのままくるりとむきを変えさせた。
 片手で引き戸を閉め、外から―――空から見えないようにしてしまう。
 別段見られて困ることはないが、よそ見をされるのは面白くない。
 抱えあげて褥に運ぼうかと思ったが、その前に誘うように両手が首にまわされて、
 まあいいかとそのまま畳の上に押し倒した。

「罪を与えてなど、やらない」

 ぽつりと、男を見据えて言い放つ。
 襟元から伸びる手に眉を寄せることもせず、みずからも男の太い首筋に指を這わせて。
 児戯のように慣れぬ動きは、くすぐったいばかりだが、告げるほど野暮ではない。
 彼女はそれからうすく口角を上げてみせた。

「お前が雷に打たれるとしたら、―――」

 首筋に舌を這わされ、言葉が不自然に跳ねて途切れる。
 はだけた白い衣から覗くのは、同じくらい白い肌。
 年相応に瑞々しいそれに軽く噛みついて、錯覚のような甘さに酒よりなお酔う。
 胸の頂を口に含めば、弾んだ声が空中を飛ぶ。
 腰のあたりをゆるく手でなぞれば、ゆらりと誘うように腰が揺れる。
 小さく喘ぎながら、それでも途中で止めたくないのか、残りの言葉を必死に紡ごうとする。
 男はそれを遮るように顔を寄せ、喘ぐ唇を己のそれで塞いでしまう。
 直に伝わる震えは、脳の後ろをつき動かし、貪欲な欲求の引き金に手がかかる。

 服を脱がす手間が惜しくなって、乱れた裾から手をさしいれて、太ももをなであげていく。
 かすめるようにふれたそこはすでに熱く、くぐもった声が漏れた。
 求めながらも恥じらい、どこへともなく逃げようとする肢体を抑えつけて、ひどく丁寧に中心に指をそえた。

「ぁ……っ」

 空気を求めて離れた口から、甘い音が奏でられる。
 顔を見られたくないのかそらされてしまったので、首筋に舌を寄せることにする。
 その間も一番敏感な部分を愛でることは忘れない。
 あっという間に潤っていき、乞うように指先に蜜が絡みつく。

「そんな日はこない」などと、口で言えば軽くなる。

 だから男は代わりに、雷から身を隠して、その身を組みしいて。
 自分の身体でもって彼女を地面に縫いとめた。





> 書きたかった部分はエロではないので、軽めで。
> ……前もソフトだったので、もう少しがつんと書くべきでしょうか。
> 書いたら書いたで引かれそうで恐いですが。
> いえ男性むけほどではないと思いますけれど……

> ともあれ雷話。道雪の逸話以外にも、
> 菅公が好きな私としては、雷は好きなモチーフです。
> くわばらって入れ損ねましたけど。