< ふたり >


 年をとる、ということは、この世に生まれたからには避けられぬことで。
 人も、木々も、なにもかもが、速度は違えど老いていく。
 気がつけば己も、他者から敬われるだけの年齢を重ねていた。

 声が低くなり、記憶に残る祖先に似てきたと言われ。
 低かった背は伸び、見下ろすことが多くなり。
 小さかった掌は得物に合わせて節くれ立った。……それでも、つかめないものはあるけれど。

 齢を重ねるごとに、よくも悪くも世の中に慣れていく。
 若いころのように突き進むことは減り、しがらみや利益をまず考えてしまう。
 己一人だけではすまない身の上は、時に窮屈だが、
 あとに続く若い者たちのためにと自然に思えるようにもなっていて。
 夜通し博打と酒に明け暮れても、明日のことなど予測できなかったころとは意識が違う。

 そんな自分に嫌悪はなく、ただ苦笑いがひとつこぼれるだけ。

 心がそうなる一方、身体は一定の山を越えると衰えるが、それも鍛錬すればある程度食いとめられる。
 ここに至るまでに培った知識が、減った部分を補ってあまりあった。
 もっと先には判断も鈍ってくるかもしれないが、
 そうならぬためにも、日々の修行を怠ってはならないと自分に言いつけ、実践する。
 彼が熱心にしていれば、下に続く者も怠けてはいられず、自然男の軍は精鋭となる。

 そんな自身に、なんの不満も不服もなかった。
 この戦乱の世は、なにより気性に合ってもいた。
 今の時代に生まれて、一片の後悔もないと胸を張れるだろう。

 けれど、彼女と己の年の差を知って。

 先に生まれてきた自分を勇み足だと失笑し、
 遅く産まれた彼女になぜもっと急がなかったと苦言を呈しそうになる。

 悔いているのとは違う。

 ただ、近い時に共に在ったならば。
 隣同士で競う間柄であったら。

 間違いなく好敵手であり親友であり、
 そして時代を変えたろうと、確信があったから。

 それはたとえば軍神と、軍略の鬼と呼ばれた宿敵同士のように。

 だが、どう願おうとそれは叶わないこと。
 手からこぼれた砂をもどすことなどできはしない。

 だからこそ今日も男は、訓練に少しも妥協しない。

 同じように刀を振り、上を目指す彼女を、知っているから。
 瞬く間に力をつけるその隣に、堂々と立っているために。





 > 史実どおりですと三十五歳差。
 > 年の差大好きな私にはたまりません。
 > にしても、私の書く島津はちょっと弱々しいでしょうか……(汗(09.04.04初出)