< 答えは? >


「嘘をついてもいい日?」
「ああ、異国にはそういう風習があるそうだ」

 朝の鍛練を終えて、一息入れた昼時。
 彼は愛用の三味線を手入れしながら、伝え聞いた話をする。
 不思議なものがあるんだな、と彼女は目を丸くして呟いた。

 偽り、というものには、当たり前だがいい印象がない。
 戦場ではやむを得ないこともあるが、いつかなんらかの形で報いを受けると思っている。
 だからどんな些細なことに対しても、彼女は真実しか口にしない。
 生きにくそうだろうと、馬鹿正直と影で囁かれても。
 己に反したことをすれば、自在に操れるこの雷光が、自分を貫くとさえ考えていた。
 だからどうしてもの時は、本当のことを言わない、という方法をとっている。

「……この国ではできないだろうな」

 周囲をぐるりと見渡して、遠くに鍛錬の姿を見る。
 キリシタンが多いわけでも、そんな習わしが行きとどいているでもない。
 自分はこの治世のもと、決して軽んじられぬ地位にいる。
 それはすなわち、言動に責任がある、ということで。
 迂闊な嘘を口にすれば大変なことになるだろう。

「他愛のないものなら、構わぬのでは?」

 空から団子がふってきた、とか。
 彼がいつもの楽器ではなく、笛を吹きだした、とか。

「……たしかにそれなら誤解は招かずにすむが……」

 そこまでして嘘をつく必要があるかと問われれば、答えは否だ。
 彼のほうも期待しているわけではなかったらしく、そうだな、とうなずいた。
 視線が三味線から離れないことからしても、てんで本気ではないのだろう。

「……嘘と思われるのも、事実ととられるのも、困りものだ」

 ぼそっとした呟きは、軽い吐息と共に。
 視線は遙か彼方、見ているような、そうではないような。
 彼は視線を動かさず、誰に、どんな言葉を、とも聞かなかった。

 いい機会だと告げて。
 嘘ととられれば傷つくだろう。
 真実と思われれば、冗談だと誤魔化すだろう。

 だから今日は、なにも言わないことにした。





 > エイプリルフールネタ。
 > 唐突に思いついたので。
 > 書いている時点で一時間も残っていませんが……(09.04.01)