< 手紙 >


 尚香が輿入れしてきて、彼女がまずしたこと。
 それは、孫呉へ手紙を書くことだった。
 見られて困るものではないらしく、劉備がいても気にせず書いていたし、見せてもくれた。

 内容は日々の報告が主。
 行った鍛錬の内容や、地方料理のことなどなど。
 劉備のことも褒めちぎっているため、彼は以来恥ずかしくて見たがらなくなった。
 蜀の内情などを書くことはせず、ただ、自分の生活をしたためていく。
 そして末尾にはいつも、こうあった。

『私は蜀にきて毎日楽しく暮らしています。
 玄徳様も、他のかたも優しくよくしてくれるし。
 だから兄様、心配しないで』

 江東の虎には子供が三人いた。
 しかし虎自身は策略により今は亡く、後を頼まれた長兄も不可思議な死を遂げた。
 彼の無二の親友であった才能ある軍師も、あとを追うようにその身を儚くし……
 残った孫権が、嫁にやった妹を心配するのも無理からぬところ。

 そのため、まめな手紙のやりとりは、女官たちには微笑ましく思われていた。
 だがその理由に薄々気づいている面々は、尚香に対して感謝と気遣いの目をむける。


 そんなある日、彼女は寒波にやられ風邪気味だった。
 鍛錬も休んで部屋にいる彼女のもとに、政務を終えた劉備が見舞いに訪れた。

「尚香……何をしているんだ?」

 寝ているとばかり思えば、彼女は文机にむかっていて。
 問いかけた彼に対し、少し憔悴した笑顔を見せる。

「いつもの手紙を、……ないと、兄様が心配、するから」
「……無理をせずとも」

 言葉少なに声をかけたが、激しくかぶりをふられた。

「私、ここが好きなの、だから……!」

 泣きそうな顔と、必死の声。
 劉備は華奢な身体を抱き上げた。
 褥に降ろすと、なだめるように頭をなでる。

「……ありがとう、だが根を詰めてはいけない。
 少し休んでから、続きを書くんだ」

 うしろから抱いているので、表情は見えない。
 それでも言い含めると、こくりとうなずかれたので安心する。

 長く続いてほしいのは、自分も同じ。
 だから彼女の行動を止める気にはなれない。

 あと、きっと、ほんの少しの間だけ。
 それでも……

 抱き合ったまま無言で、二人は互いの体温を感じていた。





 > 拍手として延々出ていたもの……
 > 無双のこの夫婦は、ネタはあまり出てこないけれど大好きです。