< 共に在る >


 後世の史家が言う、三顧の礼が成り。
 諸葛亮は劉備らと行動を共にすることになった。
 そこに、当然のように彼女は随行した。

「月英です」と、言葉少なく自己紹介をした彼女。
 孔明の妻である彼女は、夫の帰りを家で待つタイプではないらしい。
 この戦乱の世、女性の将軍も少なからず存在するので、それ自体は珍しくはない。

 しかし、今の劉備らには寄る辺となる居城もない。
 その上、後の驚異を考えた曹操に狙われている現状で。
 辺境の地に住まっていたことを考えれば、情勢が固まるまで、とどまってもらうほうが安全だろう。

 好きこのんで妻を危険にさらしたいと思う夫はいない。
 共にいると言っても、行軍中ではゆっくりすることはできないし、制限も多い。
 男の身でも楽ではないのだから、女性にはかなりの苦労だろう。
 劉備は、平然とした顔で行軍に従う孔明に、そっと声をかけた。

「奥方のこと……心配ではないのか?
 彼女は、実家などにいたほうがよいのではないか?」

 彼自身は、前妻と死に別れている。
 足手まといになるくらいなら……と身を投げたと、聞かされた。

「もし、万一があれば……」

 それはたしかな危険性であったけれど、だからと言って納得できるものでもなくて。
 そんな思いを他の誰かも経験するなど、なんとしても避けたかった。
 劉備の熱心な言葉に、しかし孔明は薄く笑んでみせる。

「……だそうですよ、月英」

 いつのまに近づいていたのか、傍らに彼女がいた。
 無言で劉備を見つめてくる視線に、慌てて言葉を紡ぐ。

「決して貴女を軽んじたわけではない。
 しかし、今の我々の状況は決してよいものではないから……」

 そんな君主の様子に、月英はくすりと笑った。

「ええ、存じています、でも……」

 一度言葉を切って、隣の夫を見やる。
 それから劉備にむきなおると、少しいたずらっぽい目をしてみせた。

「夫が妻の無事を願うのと同じように、妻は夫を案じているものです。
 大多数の女性には戦う力がありませんから、家で待つことになりますけど……」

 ぽん、と己の武器を軽く叩く。

「私はそうではありません、だから共に在るのです」

 決して武芸の達人ではないが、少なくとも足手まといにはならない。
 兵法も学んでいるから、ある程度の兵を率いることもできる。
 今の劉備軍にとっては、一人でも戦力があればありがたいことはまぎれもない事実。
 月英の言葉に、孔明は穏やかな笑みを浮かべているだけ。

「私が言うまでもなかったな、すまない」

 信頼しあった二人の姿に、彼も表情を和らげた。
 ここにこうしているということは、お互い納得済みに決まっている。
 それでも口を出してしまったのは、己の性格か、それとも過去ゆえか。

「いえ、お気遣い、ありがとございます」

 羽扇を揺らし、孔明が頭を下げる。
 妻を連れての参加を、快く思わぬ者もいるだろうに、そういった気配が微塵も見あたらないのは、やはり劉備の人徳なのだろう。

「兄者ー!」

 と、遠くから張飛の大きな声が聞こえてきた。
 手をふる彼にふりかえすと、またあとでな、と声をかけてそちらにむかう。

 自分はもう結構な年齢だし、これからの道は決して平らかではない。
 それでももし、誰かをまた娶ることになったら。
 その時は、願わくば共に在れる相手を。
 漠然とそう思った劉備だった。





 > どこが孔明×月英なのか……と我ながらツッコミたいですが。
 > こんな感じだと個人的にとても嬉しいです。
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