−クリスマスサプライズ──失敗−

「いいですね、クリスマスデート」

 ちょっとだけ鼻の頭を赤くしながらも、彼女は楽しそうに笑っている。
 この程度の寒さならヴァージルには冬とも言えぬほどだが、アンジュには違うらしい。
 毛糸の帽子とマフラー、手袋まで完備していて、まあかわいらしいのだが、手が握れないのは少し寂しい。
 万一にも風邪を引いてほしくはないので、防寒対策はそのままでいいけれど。

 美しく電飾がきらめく林の中は、ちらちらと雪まで降っている。
 とはいえ足下が危ないほどではない。まるで幻のように地上へ落ちると消えていく。
 ホワイトクリスマスをやりたい、という女王の願いのもと、ゼノたちが奮起した結果だ。
 広範囲に雪が降り、公園聖地の人々にも解放された。
 ついでに出店だの、各地の祭りを模したものだのも用意された。
 異文化をみんなで大いに楽しんだので、特に文句も問題も起きていない。

 だが、深夜のこの時刻は、いかに平和な聖地でもひとけはない。
 イルミネーションが多い場所も用意されているが、この時間は最低限のみ。
 ヴァージルだって、己と一緒でなければ外出を許可しない刻限だ。
 けれどおかげで、二人きりで夜を堪能することができる。
 ……万一に隠れる場所がないとか考える習い性は、どうしようもないけれど。

「ああ、こちらです、足下に気をつけて」

 飾りつけられた道はいくつかあるのだが、そのうちのひとつに案内する。
 ここには、己のたっての願いでつくったものがある。
 少し歩くといくらか開けた突き当たりになる、
 その最奥には一本の葉が落ちた木があるのだが、

「……ぽんぽんですか?」

 木を見た恋人は、十秒ほどたっぷりそれを眺めてから、不思議そうに呟いた。
 なにかわからない、という様子の恋人に、えっ、と驚いた声をあげる。
 おかしい。ヴァージルの予定していた反応ではない。
 バースのクリスマスでは鉄板だという情報は間違っていたのだろうか。
 慌てている姿に、なにかあると察したのだろう。
 じぃっと見つめられたら、白状するより選択肢はない。

「──この木についているのは、ヤドリギです」
「あ、聞いたことはあります、こういう形なんですね」

 へぇと感心する様子に、調べた情報の地域が違っていたことを悟る。
 小さい星とはいえ言語も異なる大陸があったのだ、もっと精査すべきだっただろう。
 しょんぼりしている様子を見かねたのか、彼女は笑って腕を絡めてくる。
 手袋だからこっちで、なんてさりげなく甘やかす。

「欧米……別の国のクリスマスでは有名らしいので、見られて嬉しいです」

 木には電飾を施さず、周囲の明かりでヤドリギを照らしている。
 装飾はプロにまかせたが、流石の仕事ぶりだった。
 もくろみは不発に終わってしまったけれど、嬉しいという恋人の言葉に嘘はなさそうだ。

「ちょっと座りませんか?」

 下心満載で設置してもらったベンチに、なにも知らない彼女は誘ってくる。
 そうですねとうなずく表情は、闇にまぎれて誤魔化せていればいいのだが。
 軽くベンチをはたいてから席をすすめると、恋人は水筒に入れてきたお茶を出す。
 暖かいそれにじわりと腹の中が暖まって、平気であっても寒いものは寒いと、当たり前のことを感じた。

「で、どうしてわざわざヤドリギを?」
「……できれば流してほしかったんですが」

 どうやらスルーしてもらえないようだ。
 ここで黙秘権を行使したって、調べればすぐにわかることだ。
 だからヴァージルは早々に白状してしまう。

「ヤドリギの下ではキスを拒めない、というルールがあるそうなんです」

 他にもいくつか出てきたので、どれが事実かは知らないが、お祭りにかこつけたものは変化するものだ。
 都合のよいものを使うというのは、色々な場所で行われることでもある。
 ただ、共通しているのは、どの伝承も家族や結婚など平和な事象にかかわること。
 だから悪いことはあるまいと、設置もすんなり許可が下りた。
 ヴァージルの説明を聞いた彼女は、見慣れたいくらかすわった目をしてみせた。

「私がヴァージルにキス禁止を言うのは、TPOをわきまえてないからですよ」

 仕事中は流石に我慢しているけれど、終わった瞬間だったりと、……身に覚えはありすぎる。
 キスを止めた彼女への不満というよりは、大義名分が欲しかっただけだ。
 我が儘な自覚はあるので苦笑いすると、彼女はふぅ、とひとつため息。
 呆れられてしまったかと開きかけた口は、そこで止まる。

 ちゅ、と小さなリップ音が響いた。

 呆然とするヴァージルに、耳にかかった髪の毛を払いながら、にっこりと微笑む。

「こっちからしちゃいけないってことは、ないですよね?」
「──ええ、多分」

 ならよかった、とフリーズしているのをいいことに、もう一度キスが落ちる。
 つややかに塗られた唇が、いたずらっぽく弧を描くさまはとても魅力的で、ヴァージルはまた恋に落ちた。 
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