−あたらしい星−
 「……あんな星、ありましたっけ?」

 夜のベランダで晩酌中。
 恋人の言葉につられて、視線を上へと投げかける。
 だが、漠然とした方向だけでは、どの星のことかわからない。
 普段から見上げているわけではないのだ。そもそも星なんて、方角を確認するためのひとつを覚えておけばいい話なのだから。

「何時の方向ですか」
「何時……えーっと……」

 ヴァージルにとってはもっともわかりやすいのだが、彼女は困惑の声をあげた。
 そういえば一般的ではないかもしれない。
 しばらくの問答の末、恋人が見つけた星にたどりつく。
 いわく、数日前にはなかったという。
 だがヴァージルは細かな星まで記憶していないから、曖昧にうなずくだけだ。
 恋人としての時間の中で眺めた星図なら、しっかり脳に刻まれているのだけれど。

「──あ、やっぱり。できたての星みたいです」

 タブレットで調べた画面を覗けば、たしかに、聖地の時間で数日前に生まれたようだ。
 女王の力に満ちあふれている現状では、彼女に負担を強いることもなく、自然の摂理で新たな星が生まれていく。
 一応の報告はあがってくるが、余程の問題がないかぎりは、さらりと通りすぎるものだ。
 聖地で見られるということは、他の星でも見ることができている。
 ピンクのネイルが塗られた細い指先が操作すると、オウルをはじめとした地域での、その星への呼称が表示された。
 星自体にはまだ知的生命体が生まれていないので、おのれの名はつけていないらしい。

「でも、だいぶ遠いですね」

 空に映っている星々は、ほとんどがはるか光年の先にある。
 化学力の進んだオウルでさえ、到達するのに百年以上かかる星のほうが多い。
 新たなあの光も同じで、通常の人間は、ちょっとそこまでとはいかない。
 ──ここ聖地からなら、そのかぎりではないが、赴く理由がないかぎりは不可侵だ。

「──ね、ヴァージル」

 ふと、恋人がすこし変わったトーンで呼びかけてきた。
 真剣な表情をした彼女は、同じくらい真面目な調子で言葉を紡ぐ。

「あの星が消えるまででも、一緒にいてくれますか?」

 星の寿命は長い。その長さは女王の在位よりもだ。
 ヴァージルの故郷だって、今でもまだ活動しており、寿命はまだまだ先と言われている。
 守護性聖も女王も、力を持つ期間はまちまちだが、……星が生まれてから死ぬまで存在した者は、おそらくいないだろう。
 彼女だってそれは承知の上のはずだ。だから意味合いとしては言葉遊びじみているのに、言動がまったく似つかわしくない。
 きっと、数刻の間に色々と考えてしまったのだろう。
 だが、それは表に出さず、荒唐無稽な話を持ちだすのなら、己は応じるだけだ。

「勿論です。滅んで、また生まれるまででも、共に」

 寿命なんてもので断ち切れるほど、軽い想いではないのだ。
 幾度──たとえば宇宙が滅んだって、恋人への愛情はなくなる気がしない。
 だから迷うこともなく、さらに重くして返せば、彼女はぱちりとまばたきをしてから、おかしそうに吹きだした。
 その顔は愛らしくほころんでいて、表には出さずに安堵する。
 どんな彼女だって愛しているし、どれひとつとして偽物だとも考えたりしない。

 けれど、できれば仕事中以外は難しく思い悩んだり、悲しんでほしくない。
 愛しい相手に対してそう願うのは、ごく当たり前のことだろう。

 ありがとうございますと微笑む彼女を、夜の空気から守るべく抱きよせた。
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